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遂に明かされた<巨匠>の軌跡――「高畑勲展」

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東京国立近代美術館で開催されていた「高畑勲展 日本のアニメーションに遺したもの」が、10月6日に会期を終えて閉幕した。関西地方では、岡山県立美術館で2020年4月10日から5月24日まで開催するということなので、東京で見逃した方は是非とも足を運んでもらいたい。以下、不知火検校による展覧会レポートである。

高畑勲(1935-2018)と言えば、宮崎駿(1941-)と並ぶスタジオ・ジブリの重鎮。あの宮崎が唯一人その仕事を尊敬してやまなかったアニメーターとして、誰もが知る存在であろう。若き日には映画『太陽の王子ホルスの大冒険』(1968)、TVアニメ『アルプスの少女ハイジ』(1974)、『母をたずねて三千里』(1976)、『赤毛のアン』(1979)といった画期的な作品を作り上げ、壮年期には映画『火垂るの墓』(1988)、『おもひでぽろぽろ』(1991)、『平成狸合戦ぽんぽこ』(1994)のような大ヒット作品を次々に世に送り出し、そして最晩年には大作『かぐや姫の物語』(2013)のような「孤高の作品」を生み出すという具合に、まさにアニメ界の巨匠としての道を貫き通した人物である。

今回の大回顧展には、高畑が製作に加わったあらゆる作品の資料が集められ、それらが会場を所狭しと埋め尽くし、圧巻の様相を呈している。これは高畑ファンのみならず、アニメに関心がある人間には垂涎の企画と言えるだろう。例えば、会場を入ってすぐのところでいきなり目に入るのが、TVアニメ『ルパン三世』第一シリーズ(1971-1972)の最終回「黄金の大勝負!」の台本なのだ。このシリーズは、若き日の高畑が宮崎と共に大隅正秋から引き継いだ初期の重要な仕事だが、このようなものも含めて、絵コンテ、背景画、関連資料などを、精緻にそして周到に展示することによって、このアニメーターの全ての仕事を白日の下に晒そうとするのが今回の展覧会のコンセプトなのであろう。

そこでは、高畑がフランス文化に造詣が深かったという点を軽視することはあり得ない。ポール・グリモーの映画『やぶにらみの暴君』(後の『王と鳥』)に衝撃を受けた高畑、ジャック・プレヴェールの詩集『ことばたち』を翻訳する高畑、ジャン・ジオノの小説『木を植えた男』に衝撃を受け、それを日本語に訳す高畑の姿も、当然ながらここでは紹介されている。つまりこの大回顧展の根底にあるのは単なるアニメーター高畑勲の姿ではなく、ひとりの芸術家としての高畑勲の全体像を描き出そうという強い意志である。そしてその試みは見事に成功していると言って良いだろう。

音楽に造詣が深かった高畑の面も、もちろん忘れられていない。実際、『セロ弾きのゴーシュ』のような作品は、高畑に楽器に対する深い知識がなければ作れなかっただろうし、彼の作品が常に類まれなほど美しい音楽に包まれていたのも、その確かな「耳」によるものだということが、この展覧会でもはっきりと明らかにされている。展覧会会場で美しい映像と共に流されている『赤毛のアン』のテーマ曲が、(高畑と同じ東大仏文の出身である)三善晃のような現代音楽を代表する作曲家によって書かれ、絶妙な味わいを見せていることも、彼自身が音楽を正しく峻別し、構築する才能があったからだと見て、まず、間違いないだろう。

スタジオ・ジブリでの宮崎駿の大車輪の活躍ぶりに、私たちは高畑勲の偉大さを忘れてしまうことがあったかもしれない。しかし、高畑勲がいなければ宮崎駿の活躍はなかったということは、宮崎本人も認めることだろう。今回の展覧会は、いかに高畑が日本のアニメの進展に多大なる貢献をしたのか、もっとはっきり言えば、宮崎駿に睨みを利かせていたのか、そして、彼自身が芸術家として如何なる高みを目指していたのか、ということを私たちにまざまざと見せつけてくれるだろう。

フランスで、つまりは、芸術を最も理解する国で高畑の評価が異様なまでに高いのは、何も特別なことではないのだ。その理由がこの展覧会に来てみればはっきりと分かる。




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